イギリスのリヴァプール出身のメロディックデスメタル / ゴアグラインドバンドのCarcassは、これまで16枚のオリジナルアルバムをリリースしてきました。
日本では恐らくArch Enemyでの活動の方が有名なMichael Amottと、Napalm Deathでも活躍したBill Steerによるメロディックなフレーズが飛び交うデスメタル、すなわちメロディックデスメタルを確立したバンドの一つです。また、初期はゴアグラインドというバンドの成立にも貢献しており、様々なジャンルの立役者でもあります。
1995年に一度解散しますが2007年には再結成し、2枚のアルバムを発表しツアーも行うなど、現在でもその勢いは衰えることを知りません。
そんなCarcassをランキング形式で紹介します!
第7位 Reek of Putrefaction (1988)
ゴアグラインドというジャンルをつくった1st。邦題は『腐乱屍臭』。
音質が最高に悪いことに加えて、ピッチシフターでボーカルを極限まで低くしているため何を歌っているのかはほとんどわからず。聴こえたところで「粘液、痰、胆汁の混じったものを咳き込み」から始まるので聴く価値があるかは微妙なのですが…
とにかくこのような尖り散らかした音楽性が後のゴアグラインドというジャンルの成立に貢献します。
後にメロディックデスメタルを演奏するようになるとはとても思えないですが、Carcassがよく導入するサビ前のキメのフレーズはこのときに既に確立されているようです。
Carcassは今でこそメタルバンドとしての地位を確立していますが、このアルバムではハードコアパンクからの影響を多分に感じさせます。
ExhumedやDead Infection、Last Days of Humanityなど、後続へのインパクトは非常に大きいものだと思います。ただ自分自身聴く頻度が多いかと問われると正直…なので、この順位です。
ただ『Genital Grinder』はライブでの定番曲なので、ぜひご試聴あれ!
第6位 Torn Arteries (2021)
前作から8年の時を経てリリースされた7th。
前作は比較的シンプルに突っ走るシーンが多かったですが、スピードはいくらか抑えられ、デスロール成分が感じられるようになりました。(『Wake Up and Smell the Carcass / Caveat Emptor』なんかは顕著ですね。)
メロデス、デスロールの要素が絶妙なバランスで配合されている作品だと思います。
これまでの爆発力は幾分かスポイルされて即効性は落ちた気はしますが、代わりにベテランらしいツボを押さえたものに仕上がっていると思います。
まさにスルメアルバム!
第5位 Swansong (1996)
『Heartwork』での名声をどこに捨ててしまったのか、デスロールに突き進んだ5th。
前作で脱退してしまったMichael Amottは、Spiritual BeggarsとArch Enemyを結成。取り残されたメンバーによってこれまでとはまた違った作風のアルバムを制作しました。
デスメタルとロックンロールを組み合わせてデッスンロール、とかいうクソださネーミングはさておき、Entombedの『Wolverine Blues』に始まったこのジャンルに片足をつっこみ賛否両論を巻き起こしました。本作をベストアルバムに挙げる人は少ないと思いますし、迷走していた時期の作品として語られることが多いのは事実です。
ただ個人的には結構好きでして、ハモリの美しさとか独特の気だるさとか、Carcass以外には出せないグルーブがあると思います。またあまり技術面で褒められることの少ないKen Owenのドラミングも本作ではヘタウマに聴こえ、こういったゆとりのあるサウンドであれば必ずしもネガティブに働くわけでもないものだなとも思ってます。
酷評されるほどの作品かと問われたら全くそんなことはないと自信を持って答えられますし、時を経たからこそ先入観を持たずに聴いてほしいと強く思ってしまうアルバムの一つです。
『Keep on Rotting in the Free World』はライブでもよく演奏される良曲です!
第4位 Symphonies of Sickness (1989)
1stの路線からより完成度を高めた2nd。邦題は『疫魔交響曲』。
1曲目のタイトルを前作のアルバム名にするという洒落たことをしてやがります。
音質は大幅に改善されたおかげでこもっていた音が聴こえるようになりカオス度合いがより鮮明に。
前作はとにかく元気に突っ走りまくっていましたが、今作では緩急をつけたフレーズが見られるようになり、メタル由来のおどろおどろしさが目立つようになりました。
ギターのプレイもより繊細かつ緊張感があるものになり、『Excoriating Abdominal Emanation』や『Ruptured In Purulence』の序盤ではスリリングなプレイングを聴くことができます。その後の爆発がサイコーにキモチーです!
前作から進化 / 深化を見せ、単なるこけおどしではない攻撃性とセンスの良さを併せ持ったバンドであることを世に知らしめたアルバムだと思います。
第3位 Surgical Steel (2013)
5thから17年のブランクを空けた後に発売され、それまでのうっ憤を晴らすような快作となった6th。
今作では大病を患ってしまったKenに代わりDan Wildingがドラミングを担当し(Kenはバッキングボーカルのみの参加)、ギターについてはMichaelは参加せずBillのみとなりました。が、そんなことはCarcassには関係がありません。
特に最初の3曲の流れは秀逸。メロメロなインスト曲からこれぞCarcassなフレーズがこれでもかというほど詰め込まれた『Thrasher’s Abattoir』、ヒリつくスラッシュビートが特徴的な『Cadaver Pouch Conveyor System』が曲間を空けずに放たれる。もうこの約7分だけでこのアルバムは聴く価値があります。
スローダウンする曲ももちろんかっこいいですが、本作はとにかく血管がハチ切れそうなくらいスラッシュ・ブラストビートする曲がアホみたいにイカしてます。
頭3曲だけをピックアップしてしまいましたが、『Noncompliance To Astm F899-12 Standard』や『Unfit For Human Consumption』など、中盤の曲ももちろん良曲ぞろいです。
そんでギターの音作りが完璧なんだよなぁ…素晴らしいアルバムです。
第2位 Necroticism: Descanting the Insalubrious (1991)
これまでのハードコア成分はほとんどなくなり、デスメタルとしての威厳を感じられるようになった3rd。邦題は『屍体愛好癖』。
デスメタリックなフレーズの中にメロディをぶち込むという、当時としては禁じ手に近い芸当をこなせたのは本作からMichael Amottが加入したからでしょう。
メロディを導入してもセルアウトになるなんてことはもちろんなく、あくまで楽曲の厚みを出したり表現の幅を広げるために導入されています。むしろメロデスだといってこのアルバムを渡したら叩き割られそうなほど、デスメタルとして硬派なアルバムです。
爆走するフレーズはかなり減りましたが前作以上におどろおどろしく、グロさや不気味さがこれでもかというほど表現されています。
正直かなりとっつきにくいと思いますし、掴みどころがないがないアルバムだと思います。次作のような派手さもないし。ただこれこそがデスメタルの醍醐味であり、聴けば聴くほどに「わかって」いくような、そんな楽しみ方を教えてくれた作品でもあります。
他のバンドでマイケルアモットにハマってこのアルバムに辿り着いてしまった人には、ぜひ裏切られてほしいと思います。(いい意味で)
『Corporal Jigsore Quandary』は名曲!
第1位 Hearwork (1993)
メロディックデスメタルの礎となったアルバムの一つである4th。
前作『Necroticism~』ではエッセンス程度だったメロディ要素を前面に出したことで当時は賛否両論があったようですが、今となってはメロデスの教科書のような扱いがされています。
ただ彼らの場合、単純な循環コードを使うことは少なくあくまで要所要所でメロディを使用するので、いい意味でスッキリ感がなくデスメタルとしての気味の悪さをスポイルしない点が特徴です。
一方でギターソロにはHR/HMとしての普遍的な美しさがあり、「動と静」ならぬ「汚と清」の清の部分を担う重要なパーツとなっています。(汚の部分はJeff Walkerおじさんのヒステリックなボーカル)
捨て曲なしですが、やはりタイトルの『Heartwork』、オープナーの『Buried Dreams』、デスラッシュバンドの由来にもなった『Carnal Forge』などは別格でしょう。
Carcassはメロデスの枠で語られることが多いですが、その構成からフレーズに至るまでジャンルの枠に囚われることはないバンドだと思っています。後続バンドの中にはジャンルの枠に囚われたり、パターン化が過ぎたりするものもあったりしますが、Carcassに限ってはそんなことはありません。
あくまで自分たちが影響を受けたものをセンス良くつなぎ合わせた結果、メロデスというジャンルを生んでしまっただけなんだと、このアルバムを聴くと気づかされます。
決してセルアウトではないのに普遍的なカッコよさがある、そんな本作は今でも私のお気に入りです。
いかがでしたでしょうか?
Carcassの何を評価するかで順位は相当変わってくると思いますが、そういった見方ができるのはこのバンドが型にはまらず常に新しいチャレンジをしてきたからだと思います。
既にベテランの域に到達してリリースの頻度も高くはないですが、新たなるチャレンジを期待したいですね!
コメント